東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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「観光学」を学ぶ人のための「ネイチャー論」(その5) 日本の陸域の自然

「観光学」を学ぶ人のための「ネイチャー論」(その5) 日本の陸域の自然

日本は先進工業国というイメージが強いかもしれないが、経済が発展している国の中で、これほど多様な自然植生に覆われた国はなかなかない。

実際、国土のほとんどは自然である。日本の陸域のほぼ3分の2が森林、十数%が農地に覆われている。これだけでも実に国土の8割が自然植生に覆われている。温帯でこれほど植生が豊富な地域はまれである。特に森林率の高さは目を見張る水準にある。フィンランドや熱帯地域などに森林が豊富な国は見受けられるが、温帯でこれほど森林率が高い国は日本と韓国ぐらいのものである。日本と同じ緯度にある他の温帯地域には、軒並み沙漠が広がっている。嘘だと思うなら世界地図を広げてみると良い。北海道から沖縄に相当する緯度にはゴビ砂漠、タクラマカン砂漠、リビア砂漠など、名だたる砂漠が並ぶ。アメリカ合衆国も内陸部の多くが乾燥地であるし、地中海に面したイタリアやスペインなども決して湿潤地域ではない。地球の大気の大循環の中では日本や韓国に当たる緯度は本来乾燥しているのが普通なのである。

しかしながら、日本の西には壮大なヒマラヤ山脈が聳えている。そのため、大気の循環がイレギュラーになる。特に偏西風が蛇行を起こすことで、偶然にも日本や韓国はたくさんの降水量に恵まれているのである。飛行機から見下ろすと茶色ではなく緑に覆われている国、それが日本なのである。

加えて日本は豊富な種類で多様な生態系に恵まれていることも特徴である。私自身、大学で森林学を学び、その後20年も森林総合研究所に勤務していたが、とても林内の動植物・鳥・昆虫などを覚えることはできなかった。学者泣かせなほど、あまりにも生物が多様なのである。それに比べればヨーロッパの植生は単純で羨ましい。日本中の生き物を覚えて自然ガイドをしようとすることは無謀な行為である。あくまでも「トコロジスト」として地域な主要な生き物と寄り添うことを選ぶべきである。

加えて日本には固有種が多い、大陸とくっついたり離れたりを繰り返すことで、多くの生物種が供給されると同時に独自の進化を遂げて新たな種へと分化していったわけである。日本は世界の中でも生物多様性のホットスポットとなっているわけである。

 

豊かな動植物がいるのであるから、世界中からその魅力に惹かれて外国人が多く訪れる。カラーバリエーションが豊富な秋の紅葉、雪の中に生息するニホンザル(スノーモンキー)などは、海外の人の間でも日本の観光の魅力として結構有名である。また、私はアマミノクロウサギの調査で奄美大島の人気の少ない林道などに出かけた際に、バードウォッチングのために来訪したイギリス人やドイツ人に遭遇したことが何回かある。日本の自然は外国人からすると、日本人の想像を超えるくらいに奥の深いデスティネーションなのである。

この様な日本の自然を、観光学の学生はどの様に理解し、どの様に活用すれば良いのであろうか。観光学の学生に、生態学者のような能力を求めるのは無茶であろう。我々は我々なりの方法で、日本に自然の観光学的あり方を模索していかなければならない。この問に対する一律の解答はない。ケースバイケースで考えていくことが必要である。

ただ、解答はないが原則はある。ネイチャーレクリエーション論で強調している三原則である。つまり、

1.「(自然は)保全しなければならない」

2.「(自然は)訪れるに値する」

3.「(自然は)恐ろしい」

という3点である。

ディズニーのSCSEの原則のように、自然地域の観光においては1~3の順番で優先順位をつけて、適切に管理することが大切である。

その要として観光学を修めた人間が役に立てる時代が来れば良いと思っている。

具体的なノウハウは未だ確立していない。

 

 

 

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