東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

本拠地 

〒151-8677 東京都渋谷区富ヶ谷2-28-4 東海大学観光学部 4号館3階 

TEL.03-3467-2211(代)

湘南キャンパス 〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1 東海大学E館1階教員室1

 

TEL.

0463-58-1211 (代)

田中の覚書

論文には書かない、講義では話さないような内容を綴っていきます。 

観光学に関することと、大学・ゼミに関することが中心です。

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東海大学交友会誌『TOKAI』で田中ゼミが紹介されました(2013年4月1日発行)

2013年4月1日付けで発行された交友会誌『TOKAI』Vol.170の15ページで、田中ゼミが紹介されました。

「余暇、環境、経営など幅広い視点から観光資源のマネジメントを考える」というタイトルで、ゼミ長の間瀬菜々美さんや、昨年の「日本レジャー・レクリエーション学会全国大会(於:上智大学)」でポスター発表をしてくれた佐々木雅文さんのインタビュー記事も掲載されています。

他のゼミ生の解析風景の写真も載っています。

限られたページの中で非常にわかりやすくコンパクトにゼミの内容が紹介されており、編集者の皆様には本当に感謝申し上げます。

「観光学」を学ぶ人のための「ネイチャー論」(その2) 観光学部出身者の「立ち位置」・言葉の定義

本学観光学部は私立文系に位置づけられる。本来、大学に「文系」「理系」という変な垣根を作って、「文系は自然科学の知識に疎くて良い」と涼しい顔ができる日本の学業のシステム自体がとても妙で嫌なのであるが、それが現実。現実を受け止めた上で講義を組み立てなければならない。

実際本学部で開講している自然系の講義は限られている。あなた方のうち、例えば自然公園や都市公園などの「公園管理者」になりたいとか、「ネイチャーガイド」になりたい、「リゾートホテル」や「地方自治体」などで自然地域の観光やまちづくり、地域おこしの職に就きたいなどと考えている人は、学部開講講義だけでは十分とは言えない。なるべく早く、オフィスアワーなどの時間に相談に来てほしい。自然に関わる職業につくには、そのために必要な専門的「職能」と、その専門的職能を活かすために「観光学側として身につけておくと良い知識や資格」がある。個別に内容が違ってくるので可能な限りアドバイスしたいと思う。

また、大学で提供する講義内容はベーシックなものに留まるので、発展分野や実践分野としては、是非外部の各種制度も活用してほしい。今回は比較的信頼の置ける2機関の取り組みをHPのURLとともに紹介する。

 

一つ目は、信州大学の取り組みである。

信州大学農学部の付属施設AFC(アルプス圏フィールド科学教育研究センター)は、山岳地域の観光レクリエーション、エコ/グリーンツーリズム、自然保護などに関わる各種実習プログラム(夏休みや春休みに開講)を、外部の大学生にも公開している。HPのアドレスは
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/agriculture/institutes/afc/

である。観光はそもそも文理融合。農学や工学系にも観光の研究部門があって、彼らは自然に対する本格的な学習を続けています。様々な学部の日本中の大学生が集まるこのプログラムに出席すると、専門性が深まるとともに、自分の観光学部学生としての立ち位置が深まること請け合いである。

二つ目は、損保ジャパンのCSOラーニング制度である。この制度は大学生・大学院生に、環境分野のCSO(市民社会組織、NPO・NGOを包含する概念)でインターンシップを経験してもらう制度である。インターンを通して、環境問題や市民社会のあり方などについて考え、より視野の広い社会人になっていただくことを目指している。この制度に参加するインターン生には、1時間あたり800円が奨学金として支給されることも魅力的である。自分のスキルアップをしながら生活費も手に入る。残念ながら本学では単位認定はしていないが、それと引き替えに奨学金が手に入ることは魅力であろう。詳細は下記URLを参照のこと。今年度の東京地区の説明会は4月30日にあるそうである。

http://www.sjef.org/internship/

 

何はともあれ、観光従事者は自然を取り巻く人の「かすがい」になってほしい。

自然地域には、「地域の主」みたいな人がいっぱいいる。素晴らしい人材が数多くいる。しかしよく表現すれば個性的、悪く表現すれば「山オタク」「昆虫マニア」「アウトドアスポーツ馬鹿」「自然保護妄信者」「無頓着な開発業者」のような偏った人間がうようよしている。しかも、人口の少ない自然地域でこれらの人々が縦割りに活動している。観光とは、「地域の光を観る」ことをサポートする産業である。観光学部の学生には是非これらの人材のかすがいとなるような役回りを演じてほしい。観光立国が目指している「すんでよし、訪れてよし」の持続可能な地域づくりを行うには、これら個性的な人材を活用しながら特定の話題に固執せずにいられる「一歩引いた自然の見方」を身につけることが何にもまして大切である。

そのためには、何はともあれまずは、「言葉の定義」を確認しておこう。大学の学問では定義された言葉をベースに議論することがルールである。本日は、「自然」とは何か、一般的な言葉の定義を確認しておきたい。

「自然(しぜん)」という言葉は、近代に入ってから使われるようになった言葉である。英語のNatureに対応する言葉として使われるようになった言葉である。そのため、本講義では「自然」ではなく元々の「ネイチャー」という言葉を採用した。なお、近代以前にも「自然(じねん)」という言葉はあった。野生の山芋「自然薯(ジネンジョ)」などでおなじみの言葉である。

 

さて、自然という言葉の定義であるが、著名な辞書『広辞苑』には下記のとおり書いてある。これらの意味合いを、今後の講義展開の前提として是非覚えておいてほしい。

①(ジネンとも)おのずからそうなっているさま。天然のままで人為の加わらないさま。あるがままのさま。(「ひとりで(に)」の意で副詞的にも用いる)枕草子(267)「-に宮仕え所にも、(以下略)」。「ーそうなる」

②ァ〔哲〕(physisギリシャ・naturaラテン・natureイギリス・フランス)人工・人為になったものとしての文化に対し、人力によって変更・形成・規整されることなく、おのずからなる生成・展開によって成りいでた状態。超自然や恩寵に対して言う場合もある。

②ィ おのずからなる生成・展開を惹起させる本具の力としての、ものの性(たち)。本性本質。太平記(2)「物相感ずること皆 ー なれば」

ゥ 山川・草木・海など、人類がそこで生れ、生活してきた場。特に、人が自分たちの生活の便宜からの改造の手を加えていない物。また、人類の力を越えた力を示す森羅万象。「 ー 破壊」「 ー の猛威」「 ー の摂理に従って生きる」

②ェ 精神に対し、外的経験の対象の総体。すなわち、物質界とその諸現象。

ォ 歴史に対し、普遍性・反復性・法則性・必然性の立場から見た世界。

カ 自由・当為に対し、因果的必然の世界。

③人の力では予測できないこと

ァ 万一。平家物語(7)「 ー の事候はば。」

ィ (副詞として)もし。ひょっとして。伽、一寸法師「 ー 舟なくては如何あるべきとて」

 

また、本講義では養老孟司さんの自然に関する定義を紹介しておきたい。

養老孟司は自然について、「自然的発想」と「都市的発想」とを対置して考えている。そして、都市と自然を、場所や物ではなく、「考え方」で定義している点がユニークであると言える。

端的に言ってしまえば、

•「ああすれば、こうなる」の考えですますことができるのが都市的発想。

•「ああすれば、こうなる」ではどうにもならないものが自然的発想。

•その両者をつなぐのが「手入れ」という考え方。
と表現できる。この内容について理解するためには、是非、養老孟司(2002)『手入れ文化と日本』白日社. 282ページを参照されたい。大学の講義は90分の講義に加え、それと同じだけの自宅学習が必要になる。ここで紹介する図書や論文は、自宅学習のための参考書である。これらの参考書を読まずに、何年後科の就活を目の前にしてから相談されても、ありきたりのアドバイスしかできないので、ご容赦願いたい。

 

「観光学」を学ぶ人のための「レジャー論」(その2) 大学の観光学でレジャー・レクリエーション論を学ぶ意義

観光学で、なぜレジャー・レクリエーション論を開講するのだろうか?

理由を簡単に言ってしまえば、例えば、多くの人に満足のいく旅行を提供するためである。でも、ところで、どうすれば満足のいく旅行を提供できるのであろうか? 観光学部の学生として何を身につければ満足のいく旅行の提供者になれるのであろうか。答えは一筋縄ではいかない。

 

第一に、「旅行業務取扱管理者」など旅行に関する実務知識を身につけることが大切であろう。複雑な旅程管理を任せられる信頼のあるパートナーがいれば、旅行者は心強い。現地の添乗員に語学が達者な人がいるのも頼もしい。英語はもとより、もう一つぐらい日常会話ができる言語を習得しておくことは、とてもよいアドバンテージになる。礼儀作法やホスピタリティを心がけることも大切である。他人を不快にさせないことは何にも増して重要なサービス産業の基本である。これらのことは観光学部の学生にも学んで欲しい。大学在学中に上の3つすべてをこなせるようになった学生は、実際の所、就職戦線でも結構引く手あまたになるのではないかと思う。

ただ、意地悪なことを言えば、上記の3つとも特に大学で教えなければいけないというようなものでもない。実務知識も、語学も、礼儀作法も専門学校においても似たようなカリキュラムがある。大学にせっかく来たのだからプラスアルファを学ぶと格好いい。

まずは、観光学部であるから観光学の枠組みを押さえることをお勧めする。観光学は「メタ領域学」である。メタ領域学とは複数の領域学から構成される学問のことである。領域学が2階の学問であるとすれば、観光学は3階の学問である。

では、2階には何があるか。キーワードは「マネジメント」である。マネジメントには2種類ある。1つ目は観光を扱う企業や団体をどうマネジメントするのかという学問である。「経営学」のことである。この場合のマネジメントは「経営」と訳されることが多い。観光学は産業を扱う学問である。産業でお金を稼ぐ企業が効率よく動くにはどうすれば良いのか、企業のドメインを定め、戦略を組み、それに合わせて組織をつくる、そのノウハウを科学的に追求する「経営学」の知識がしっかりしていなければ3階の観光学は不安定になってしまう。

2つ目のマネジメントは観光で赴く場所をどうマネジメントするのかという学問である。この場合のマネジメントは「管理」と訳されることが多い。このマネジメントに対応するのは「地域管理学」なのであるが、地域管理学は現在では細分化されて各々独立した学問となっている。都市域は「都市計画学」、農村は「農村計画学」、林地は「森林学」、自然公園地域と自然保全地域は「造園学」が、代表選手といったところか。

いずれにせよ3階の「観光学」を安定して修めるためには、「経営学」と「地域管理学」という2階の2つの学問の基礎もしっかり修めなければならない訳である。

ところで「経営学」と「地域管理学」は2階の学問である。2階と3階だけでは空中の楼閣になってしまう。地に足が付いていない。「天空の城ラピュタ」のようでかっこいいかもしれないが、地に足の付かないままに言動を繰り返していると、学問の世界からは仲間はずれにされてしまう。実務出身の教員が数年して昔の経験談が色あせてきたときに陥る「燃え尽き症候群」の原因はここにある。

閑話休題。1階部分の学問が必要なのである。それらはいわゆる「ディシプリン」とよばれている学問である。観光学に関わりの深いディシプリンには「心理学」「社会学」「経済学」などの文系学問や「生態学」「地学」などの理系学問がある。文系理系にまたがって、幅広い学問のディシプリンを観光学部の学生は習得しなければならないのである。私が「観光学」のことを教養学の実学版だと常日頃主張している理由はここにある。観光学は「たこつぼ研究」に逃げられないのである。(間違って観光学の世界に足を踏み入れ、学問の幅の広さに恐れおののき、元いた自分の学問にしがみつく「たこつぼさん」になってしまう研究出身の教員はたくさんいるが...またまた閑話休題)。皆さんは観光学部に入学してしまったのだから、心を引き締めて、半ば諦めて、この幅広い教養に裏打ちされた観光学の大海を泳ぎ回って欲しい。

さて、「1階から3階まで揃った。もう家としては十分だ。」と思った方はちょっと考えて欲しい。家には基礎(土台)が必要であることを忘れてはいませんか。もちろん縄文式竪穴住居のように土台のない家はこの世に存在する。でも、その様な家が3階建ての家を支えられるわけがない。メタ領域学である観光学を支えるには1階の、その下の基礎(土台)をしっかりと構築しなければならない。その基礎に当たるものは思想や哲学、言い換えれば形而上学に当たるものであり、レジャー論はそれに相当する。

「自由時間をいかに人間らしく生きるか」を考える学問がレジャー論である。企業のマネジメントをするにせよ、場所のマネジメントをするにせよ、その基礎(土台)として「充実した人生を送っている人間の存在」が前提となる。不幸せな人間が金に任せて世界各国を飛び回っている姿は想像したくない。せっかく観光を推進するのであれば、幸せなかたちで推進することが基本であろう。その土台を支えるのがレジャー・レクリエーション学である。

実のところ、レジャー・レクリエーション学ではなす内容は、君たち二十歳前後の若者よりも、企業の管理職など中高年の人たちの方に受けが良い。まだまだ頭が身軽な若者は少々土台が緩んでいても何とかなってしまうのであるが、責任が重くのしかかる中高年の管理職になると、土台の打ち直しを真剣に考えるのである。

悪いことは言わないので、せっかく観光学部に入ったのであるから、今のうちに基礎(土台)をしっかりと造っておくことを進める。後々楽になること請け合いである。

 

3階の観光学を支えるため、「2階の2つの領域学をしっかり修めること」、「1階のディシプリンを修めること」は、専門学校ではなかなかできない大学ならではの観光学のカリキュラムである。そこに強固なレジャー論という土台を加えて欲しい。世界を股にかけて働きたいと思っているあなた。レジャー論は欧米の観光学の人の間では決してマイナーな科目ではありません。世界に与するためにも、是非とも二十歳前後のうちにレジャー論を修めて、確固たる土台を築いてください。。

環境省環境総合プロ「里山イニシアチブ」の報告書が刊行されました(2013年4月15日発信)

環境省環境総合推進費終了研究成果報告書「里山イニシアティブに資する森林生態系サービスの総合評価手法に関する研究(E-081)」が刊行されました。

プロジェクトの成果報告書ということであまり一般には流通しない報告書ですが、興味のある方はご一報下さい。

国会図書館には収蔵されるようです。

メタ領域学としての観光学の階層図

この前ゼミ生から、メタ領域学としての観光学の位置づけを階層図に書いて説明していたら、HPにのせてほしいとリクエストがありました。時間がなくてつたない図になり恐縮ですが、本当に覚書レベルの投稿として掲載しておきます。

この階層図が頭に入っていないと、観光学の各科目を履修しているうちに、学問の迷路に迷い込み、迷子になりかねないので、ご注意を。

 

 

メタ領域学としての観光学の階層図クリックで拡大