東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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シリーズ:「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その6) 日本の国立公園 に関連する制度

国立公園の管理に携わろうとすれば、自然公園法に規定された主立った制度や自然公園法に定められているわけではないが自然公園と深く関わる様々な制度を覚えておく必要がある。

今回は、それらの制度をまとめて紹介する。実際のところ、国立公園の管理は、ただし全地域に隠遁して人と関わらない自適な生活をしていれば良いわけではない。産業界との交渉、利害関係の調整、啓蒙や教育様々な業務が待ち受けている。日本では顕著ではないが密猟者との命がけの戦があったり、暴動に巻き込まれたりすることもある。その点については「ガラパゴス」の事例で、講義ではビデオをみて学んでもらうことにする。

以下には、前段の制度についての概説を行う。

【その1:自然公園制度の中で覚えておいてほしい事項】

海域公園(旧:海中公園):1970年、国立/国定公園内の海域の景観を維持するため、公園計画に基づいて、その区域の海域内に設けられた地区。自然公園法により指定・管理。従来の名称は海中公園。2010年4月の改正自然公園法の施行で変更。国立公園等の海域内においても、利用調整地区を指定可能。2009年(平成21年)11月現在、日本国内では82の地区が指定され、指定に関係している公園は25箇所に上り、また総面積は4,056.9ヘクタールに及ぶ。

集団施設地区:国立・国定公園の利用拠点に宿舎、野営場、園地などを総合的に整備する地区として、公園計画に基づき環境大臣が指定する地区(自然公園法第29条)。指定されると集団施設地区計画が樹立され、これに基づき各種の施設の整備が図られる。中部山岳国立公園の上高地地区、日光国立公園の湯元温泉地区などが代表的。都道府県立自然公園においては条例により指定できることになっている。ビジターセンター、エコミュージアムセンターなど。

休暇村:自然とのふれあいを目的として、国立・国定公園内に宿泊施設を中心にキャンプ場、広場、休憩所等の各種施設を総合的に整備したエリア(集団施設地区)のうち、宿舎、スキー場等の有料施設を(財)休暇村協会が整備、運営している形態のもの。1961年から環境省(当時は厚生省)が整備開始、支笏湖、岩手網張温泉など36か所が開村。なお、施設のうち、広場、歩道、駐車場、キャンプ場等の公共施設については、国・地方公共団体が「自然公園等事業」として整備。

【その2:自然公園制度ではないが深く関わっているので覚えておいてほしい事項】

長距離自然歩道:豊かな自然や歴史、文化にふれあうとともに、健全な心身の育成や自然保護に対する理解を深めることを目的として整備された長距離の自然歩道。路線計画、整備計画を環境省が樹立、関係都府県により整備。1970年の東海自然歩道(1697km)から、九州、中国、四国、首都圏、東北、中部、北陸、近畿と順次整備。2003年には全国で9番目の長距離自然歩道として、「北海道自然歩道」の路線及び整備計画(4,585km、整備期間2003~2012年)が決定。全国の長距離自然歩道の総延長は約2万6千km、全国ネットワーク化が完成。

鳥獣保護区:鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)に基づき、鳥獣の保護繁殖を図るために指定される区域である。国指定鳥獣保護区(国設鳥獣保護区:69区域)、都道府県指定鳥獣保護区(都道府県設鳥獣保護区)と呼ばれる。鳥獣保護区では、鳥獣の捕獲が禁止。2007年の法改正から野生鳥獣の保全事業を実施。特に重要な区域を特別保護地区に指定。特別保護地区では、建築物や工作物の設置、埋め立て・干拓及び木竹の伐採などの野生動物の生息に支障をきたすおそれのある行為について指定者の事前の許可が必要となる。

天然記念物:「文化財保護法」(1950年制定)に基づき、文部科学大臣が指定する。所管は文化庁。前身は1919年(大正8年)に公布された「史蹟名勝天然紀念物保存法」。天然記念物の位置づけは、文化財保護法で規定する6種の「文化財(有形・無形・民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群)」のうち、「記念物」を構成する3種の対象の一つである(他の2つは「史跡」と「名勝」)。指定対象は、動物、植物、地質鉱物及び天然保護区域。天然保護区域では、4件が特別天然記念物に指定されている。(大雪山 : 北海道、尾瀬 : 福島県・群馬県・新潟県、黒部峡谷附猿飛ならびに奥鐘山 : 富山県、上高地 : 長野県)。

世界遺産:1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づいて、世界遺産リストに登録された遺跡や景観そして自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」(Outstanding universal value)をもつ不動産を指す。文化遺産:顕著な普遍的価値をもつ建築物や遺跡など。自然遺産:顕著な普遍的価値をもつ地形や生物、景観などをもつ地域。複合遺産:文化と自然の両方について、顕著な普遍的価値を兼ね備えるもの。他に、危機遺産、暫定リストなど。

保護林制度:原生的な森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、施業及び管理技術の発展等を目的。区域を定め、禁伐等の管理経営を行い、保護を図る森林で、国有林野独自の制度。国有林野事業では、学術の研究、貴重な動植物の保護、風致の維持等を目的とする国有林野独自の制度として、自然公園法の前身である国立公園法(昭和6年)や、文化財保護法の前身である史跡名勝天然記念物法(大正8年)の制定に先駆け、大正4年に保護林制度を発足させて以来、その保護に努めてきた。

森林生態系保護地域:国有林野事業で行われている保護林制度のひとつ。1991年の制度改正により設けられたもの。指定の基準は、(1)日本の主要な森林帯を代表する原生的天然林の区域で、原則として1,000ha以上の規模のもの、(2)その区域でしか見られない特徴を持つ希少な原生的天然林の区域で、原則として500ha以上の規模のもの。現在29箇所、約65万haが指定。ユネスコの「人間と生物圏計画(MAB計画)」の考え方を取り入れ、コア(保存地区)、バッファー(保全利用地区)を組合わせた保護方策が採られ、保護の効果を上げている。)

レクリエーションの森:国有林の制度。それぞれの森林の特徴や利用の目的に応じて、自然休養林、風景林、自然観察教育林、風致探勝林、森林スポーツ林、野外スポーツ地域の6種類に区分。

自然環境保全法:国民が将来にわたって自然の恵みを受けることができるように自然環境の保全に関する基本的事項を定めた法律。環境省所管。旧環境庁の発足後、間もなく制定された(1972)が、環境基本法の制定(1993)に際して理念に関する条文の一部は同法に移行した。自然環境保全の理念や自然環境保全基礎調査など基本的事項についての規定のほか原生自然環境保全地域(5カ所)、自然環境保全地域(10カ所:15カ所を合わせても、27,224ha)、の指定や保護規制などを定めている。また、自然環境保全に関して都道府県が制定する条例に法的な根拠を与えている(都道府県自然環境保全地域。)。

原生自然環境保全地域:自然環境保全法(1972)に基づいて環境大臣が指定(法第14条)するもので、当該地域の自然環境を保全することが特に必要と認められ、人の活動によって影響を受けることなく原生状態を維持している1,000ha(島嶼にあっては300ha)以上の土地で国公有地であることが指定の要件となっている。工作物の新改増築、土地の形状変更、動植物の採取など各種行為は原則禁止となっており、日本の自然保護地域制度の中で最も厳しい保護規制が行われている(法第17条)。遠音別岳(北海道)、十勝川源流部(北海道)、南硫黄島(東京都)、大井川源流部(静岡県)、屋久島(鹿児島県)の5地域、合計5,631ヘクタールが指定されている。)

 

 

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その5) 日本の国立公園

日本で国立公園を制定しようとする動きは明治の末に始まった。

1910(明治43)年から始まった第43回帝国議会で日光富士山を国設の公園にしようという建議が提出されたのが自然公園制定の先駆けとなった。実はこの時期の公園への期待は自然保護というよりは観光を通じた経済的期待のほうが大きかったといわれている。アメリカの国立公園成立の事情とはその点が大きく異なる。

実は同じ時の帝国議会に「老樹大木の保護」や「史跡・天然記念物の保存」に関する建議が提出されている。これは現在の文化財保護法につながる動きであるが、この動きのモチーフはアメリカの国立公園制度であったのが何だか捻れていて興味深い。

結果的には1931(昭和6)年に国立公園法が制定され、その3年後の1934(昭和9)年に「瀬戸内海」「雲仙」「霧島」の3カ所が日本初の国立公園として指定されたことはこの業界では常識となっている。

ところで、現在の国立公園は1957(昭和32)年制定の「自然公園法」に法的な根拠がある。所管官庁は環境省で、自然公園とは、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与する公園のことである。以下の3種類にカテゴライズされている。

国立公園 我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地。環境大臣が指定。

国定公園 国立公園に準ずる優れた自然の風景地。環境大臣が指定。

都道府県立自然公園 優れた自然の風景地。都道府県が指定。

どの様な地域が国立公園や国定公園になるかといった点については「自然公園選定要領」に定められている。

また自然公園の管理は日本人の観光レクリエーション観の変化や、公園指定による風景評価の変化・多様化などに合わせて変化を遂げてきた、現在は国立公園に多様なニーズが寄せられているため、かつての様に造園学を修めた国立公園レンジャーが公園内部の管理を専従的に行うのではなく、国立公園の周辺地域とのつながりも含めて、地域住民や自然保護団体、農林水産業者など多様なステークホルダーとの協働型管理が求められているのである。

また、自然公園法の構成については自然公園法の概要を参照されたい。「自然公園の管理」は「保護」と「利用」のための「事業」と「規制」のをたすき掛けにした4種類の計画に加えて「セイブル多様性の保全」に係る計画で構成されている。そのために、規制は5段階でゾーニングされていることも覚えておいてほしい。また海域公園地区の概念も理解しておいてほしい。

 

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その4) 世界の国立公園

世界最初の国立公園は、アメリカのイエローストーン国立公園である。今からおおよそ130年前、1872年の出来事である。この国立公園の誕生には、秘話として以下のことが語り継がれている。

時はゴールドラッシュに沸く西部開拓の時代であった。西へ進んだ開拓民たちは、各地で牧場経営などをはじめた。法律に基づき開拓民が開墾すれば、そこは自分たちの所有地になった。
そのような時代の最中、1870年にHenry D. Washburnらの探検隊は、イエローストーンの間欠泉や雄大な滝などの大自然に目を奪われた。
その夜、キャンプの焚き火を囲みながら、隊員たちは昼間見た景色の感動に酔いしれた。
その時、隊員のひとり、Cornelius Hedgesが、この大自然を個人の所有のもとで開拓し、荒らすのではなく、後世に伝えて公共の福祉に供するべきだと熱く語った。
この夜の熱い議論が、世界で最初の国立公園、1872年のイエローストーン国立公園の誕生を生んだのである。

以降、国立公園の概念は全世界に広まった。
日本でも1931(昭和6)年に国立公園法が制定され、戦後自然公園法に受け継がれ、今では北海道から沖縄まで、全国に30の国立公園を有するまでになっている。
ただし日本の国立公園は、アメリカのように営造物制ではなく地域制公園で、管理の仕組みや保全も目的も必ずしもアメリカとは同一ではない。

世界各国に国立公園(national park)があるが、必ずしもその概念や管理の方法が同一であるわけではない。同じ言葉が別の概念で使われていては何が何だか分からなくなる。
そのためIUCNなどが音頭を取り、10年に一度をめどに世界国立公園会議というものが開催されている。この会議は、第1回目が1962年にシアトル(米国)で開催されており、直近では2003年にダーバン(南アフリカ)で第5回会議が開催された(次回は2014年開催予定)。
第5回会議の成果は、『地球の保護地域2003(Planet’s list of Protected Areas 2003)』として刊行されるとともに、World Database on Protected AreasとしてWEB上で公開もされている。

IUCNのカテゴリーは、6つのカテゴリーに分けられている。ただし、カテゴリー1は「1a」と「1b」に分けられているので実質的には7つのカテゴリーと行って差し支えない。それらは下記のとおりである。

カテゴリー1a 厳正保護地域 Strict Nature Reserve:主として学術的な目的のために管理

カテゴリー1b 厳正保護地域 Wilderness Area:主として原始性の保護のために管理

カテゴリー2 国立公園 National Park:主として生態系保護とレクリエーションのために管理

カテゴリー3 天然記念物 Natural Monument or Feature:主として特異な自然物を保全

カテゴリー4 首都生息地管理地域 Habitat/Species Management Area:主として管理介入と通じて保全

カテゴリー5 景観保護地域 Protected Landscape/Seascape:主として陸域・海域景観の保全とレクリエーションのために管理

カテゴリー6 資源保護地域 Protected Area with sustainable use of natural resources:主として自然生態系の持続可能な利用のために管理

そして、日本の国立公園の多くはカテゴリー2ではなくカテゴリー5に区分されている。そしてカテゴリー2には、「森林生態系保護地域」や「国設特別鳥獣保護区」など、他の法律や規程による保護地域がエントリーされている。日本の国立公園は必ずしもIUCNの国立公園と同値ではないのである。

2014年の世界国立公園会議でこれらカテゴリーがどう修正されていくのかは来年を待つしかないが、今はこの様に世界の国立公園と日本の国立公園との微妙な違いを覚えておいてほしい。

 

 

 

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その3) 様々な公園

広辞苑によると我が国の公園は、広辞苑によると大きく分けて4種類。覚えただろうか。

公開された「庭園」

公開された「遊園地」

法律で定められた「都市公園」

法律で定められた「自然公園」

である。「公開されない遊園地などあるのか?」という突っ込みが入りそうだが、ないことはない。今は荒れ果てているという噂だが、故マイケルジャクソンの言えにあった遊園地「ネバーランド」は公開されていない遊園地だったと言えよう。

ちなみに上二つと下二つで分類の視点が違う。そのため、観光学として学習する内容も異なってくる。上二つは庭園や遊園地の成り立ちや歴史などを中心に学ぶ。後者は成り立ちや歴史も学ぶが法律事項を学ばなければ話にならない。

ところで、上と下とでは分類の視点が違うのであるから、当然重なる場合がある。公開された庭園や遊園地が都市公園に指定されることは珍しくない。もちろん公開されているからと行ってその庭園や遊園地が法律上の公園とは限らない。

様々な公園の分類方法を覚えておいてほしい。

 

まずは所有の観点からの違い。「営造物公園」と「地域制公園」の違いである。自分で所有している土地を自分で公園として管理する場合は営造物公園である。また、一般的には「国有」や「公有」が営造物公園の元来の原則であるが、私有の場合にも、この言葉を適用する場合も少なくない。後でも触れるが「都市公園」「国民公園」「(地方自治体が条例で定める)農村公園等」が該当する。

他人の所有地を公園として指定し、公衆の利用に供し、各種規制をかけられるようにした公園を地域制公園という。日本の場合には自然公園が該当する。ちなみにアメリカの国立公園は地域制ではなく営造物公園。イギリスは地域制公園。国によって自然公園のカテゴリーは異なっていることに留意してほしい。

 

次の区分の視点は、国有か公有かというものである。営造物公園に適用する概念である。特に、「都市公園」で国有のものを「国営公園」という。国営公園には、都府県をまたがった広域的見地から指定する「イ号公園」と、国家的記念事業で造成する「ロ号公園」に分けることができる。

 

今回の講義で覚えてほしい最後の区分の視点は、法律による区分である。日本で公園としての根拠となる法律は、冒頭に挙げた国土交通省系の「都市公園法」と、環境省系の「自然公園法」の他にあと二つある。広辞苑は全ての法規を網羅しているわけではないのである。

残りのうちの一つ目としては、「環境省設置法」に明記されている「国民公園等」がある。これは「皇居外苑」「新宿御苑」「京都御苑」「千鳥ヶ淵戦没者墓地」の4カ所である。なお「等」は千鳥ヶ淵のことを指す。また、国民公園は「園」ではなく「苑」の文字を使う。国民公園は環境省が管轄する。国立公園のレンジャーが転勤で国民公園の管理をしたりしている。

最後の類型は「地方自治法」を根拠に地方自治体が条例を作って設置する公園である。通常は農村公園などをつくる場合が多い。「都市計画区域」の外に都市公園のようなものをつくりたいときにはこの様な措置が必要になるわけである。

また今回の講義では都市公園の分類も一通り解説したが、後の講義で再び触れるので、今回は割愛する。

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その2) 言葉の定義 公園/パークの起源 現代的役割

学問は、概念・意味・論理・説明・理由・理論・思想などを扱う「ロゴス(logos)」の世界である。 社会学(sociology)、心理学(psychology)、地質学(geology)、生物工学(biotechnology)、神学(theology)など、多くの学問の名前には、ロゴスを表す[-logy]が付いている。大学の教育・研究の多くは「ロゴス」のために存在するといっても過言ではないだろう。

ということは、パークス&リゾート論を学ぶ学生は、パークないしは公園、あるいはリゾートについて、しっかり言葉で説明できる知識と素養を身につけなければならないということになる。「言葉の定義」が何にも先駆けて必要なのである。

もちろん、完全な言葉の定義が全ての場合で可能である訳ではない。そういう場合には、論文なら論文ごとに、講義では講義ごとに「我々は**という言葉を##という意味で使っている」と定義することが学問のルールになっている。

今回の講義では、この講義における公園およびパークという言葉の定義について確認するために時間を費やす。加えて、近代的な公園、パークの定義や現代的役割についても話を進めておく。「公園(パーク)」は、人間が作り出した制度/区域/社会システムである。鉱物のようにその辺を掘れば出てくる物ではないし、植物のように勝手に生えてくるものでもない。人間の頭の中のアイデアが、現実社会に有形物として表現されているに過ぎない。公園(パーク)が人間の頭の中の物だとすれば、公園(パーク)に関わる人たちの頭の中のすりあわせが必要になる。「あの人は公園をこういう風に思っているが、この人の考えは全然ちがう」という状況では、まともな公園のマネジメントはできない。言葉の定義、つまり「概念の共有」をしておかないと、観光デスティネーションとしての公園(パーク)やリゾートの適正な活用や保全は叶わないのである。

この講義では、定評のある国語辞典『広辞苑』に記載されている下記の公園の定義にしたがって進めていく。

「公衆のために設けた庭園または遊園地。法制上は、国・地方公共団体の営造物としての公園(都市公園など)と、風致景観を維持するため一定の区域を指定し区域内で種々の規制が加えられる公園(自然公園)とがある。 (広辞苑より)」

つまり

1.公開されている庭園

2.公開さている遊園地

3.法律で定められている都市公園

4.法律で定められている自然公園

の4つについての知識や概念を学んでいく。講義に当たっては、庭園をさらに日本庭園と西洋庭園に分けて教え、遊園地の中ではテーマパーク も扱っていく。それぞれの成り立ちや歴史、法制上の位置づけ、経営上の特質などが重要となる。

実のところ、1つの講義で上記4つのカテゴリーを、一度に全て教える科目は珍しい。造園学で自然公園論や庭園論を教えたり、工学部で都市公園論が開講されていたり、社会学者がおもしろおかしくテーマパーク(といいながらなぜかディズニーだけ)を講義するような科目はあるが、全てをまたがってまとまりを持って教える科目はほとんどないのである。しかしながらである。あらゆるデスティネーションと関わる観光学では、この講義のような学び方が必要なのである。

取りあえず言葉の定義に戻ろう。

日本の公園については取りあえず広辞苑に従おう。では、公園の本家である西欧ではどの様に公園は定義されているのであろうか。

『オックスフォード 現代英英辞典』よりparkの項目を抜粋してみよう。そうすると、

名詞

1.人々が散歩をしたり、遊んだり(play)、リラックスする場所となる、街や都市における公衆地の一角

2. (成句として)ある特定の目的のために使用される大きな区域(ビジネスパーク、サイエンスパーク)

3. (英国) 通常は草原や樹林を伴い、大きなカントリーハウスに隣接する囲われた区域

4. (米語)スポーツをするための場所、特に野球場。BALLPARKを参照。

5. (イギリス英語)サッカー・ラグビー場

動詞

1.車をある区画の中に運転して入り、しばしの間、駐めておくこと。

2. ~ yourself にて  しばしの間ある場所に座ったり、立ったりしていること。

とある。原文はもちろん英語である。上記の定義を見ると、広辞苑の「公園」4つのカテゴリーよりも概念が広いことが分かっていただけるかと思う。特にビジネスパークやサイエンスパークなどの言い回しは、日本の公園にはない発想であろうと考えられる。駐車場もparkingである。それには理由がある。英国におけるparkという言葉の起源は、「(狩猟用の)囲い地」にあるということである。

parkは今のような市民の憩いや休息・娯楽の場として生まれた言葉ではない。王侯貴族がカントリーサイドの土地を囲い、そこで狩猟を愉しんだことに端を発している。以後、土地の利用法は異なっても、感覚的に似たような場所があれば、英語ではparkと呼ぶ訳である。

 

ここで、英国版広辞苑とも言えるくらいに向こうでは定評のあるTheOxford English Dictionary 2ndEdを参考に、parkという言葉の意味の変遷過程を抜粋して確認しておこう(もちろん日本語に訳しておく)。

名詞

1a. 狩猟獣を維持するため、王族の下付や命令に基づき所有されている広い面積の土地

b. 故に、意味が拡張され、レクリエーションに利用したり、しばしば鹿や牛・羊を飼育するために利用するカントリーハウスや大邸宅に隣接するあるいはそれらを取り囲む、通常樹林地や放牧地からなる広大かつ装飾された土地のことを指す。

c. その意味で、現在はよくカントリーハウスや大邸宅の名前の一部に組み込まれており、そこから郊外の地域名にも使われている。例えば、 Addington Park, Osterley Park; Clapham Park.

以上のように、英語のparkという言葉の定義ががどのように 変遷したのかがよく分かる。言葉は生き物。定義も時代とともに変遷する訳である。

 

さて、この様に定義が移り変わってきたparkであるが、現代的な「都市のpark」は、ヨーロッパの近代(19世紀)に起源を発する。イギリスを例にとると、産業革命の時代にさかのぼることができる。18世紀前半のイギリスでは、第2次囲い込み運動(エンクロージャー)により、共有地(common)の減少が都市域に及ぶ事態が発生していた。そのため、産業化による都市内の環境悪化が大きな社会問題となっていた。その解決のために、イギリスでは、1836年にエンクロージャー法は公布された。この法律が近代的な「公園法制」の始まりに大きく関わっている。

例えば、首都ロンドンでは中心地から10マイル以内にある共有地は囲い込みから除外し、保存することが法制化された。その結果、現在においてもロンドン市内にはハイドパーク、リージェントパークなど広大な狩猟地が保全され、現在の公園として残されることとなった。そして、それらの公園は、今では市民の憩いの場であることはもちろんのこと、海外からの観光客の主要なデスティネーションともなっているのである。

ちなみに、アメリカのような新世界でも都市環境の悪化は進んでいった。しかし、アメリカには貴族が所有していた広大な狩猟地などは、当然のことながら存在していなかった。そのため、アメリカ国民は市民自らの力で公園を創り出さざるを得なかった。

例えばニューヨークでは、1853年にセントラルパーク創設に繋がる法令がニューヨーク州議会を通過した。市民の力で近代的な公園を創設した訳である。その後、公園が西欧社会の近代化の装置として重要な役割を果たすことになる。当然NYセントラルパークも国際的な観光デスティネーションとして欠かせない存在である。

翻って日本には著名な観光デスティネーションとしての公園がどの程度あるだろうか。札幌の大通公園や横浜の山下公園などいくつか頭に思い浮かぶ。しかし、知名度にしても数にしても、もっとあって良いような気がする。デスティネーションとしての公園の発掘も観光業界の大きな役割の1つである。

 

長くなったので、話題を変えよう。

公園が、現代の観光学にとって重要である理由はいくつかある。

1つめは、「観光デスティネーション(目的地)」だという点である。

世界初の国立公園のイエローストーン、国際的都市公園のNYセントラルパーク、日本庭園の竜安寺石庭、テーマパークのディズニーランドなど、これら公園(パーク)は、全て現代観光になくてはならない存在である。そのため、なぜこれらが観光的に重要なのかという点を学術的に理解することが観光学部生には求められる。

2つめは、「人間の概念」に基づく点である。 この点については上述したが、公園(パーク)は自然界に自明的には存在しない。人が区域を定め、管理方法を決定し、利用規制等を行って初めて成立するのである。観光学の学生はそのプロセスを理解し、概念の伝承し、上手に活用するというスキルが求められるのである。従って、観光学の教育に公園(パーク)教育が必要となるのである。

3つめは、「対象となる実態が幅広い」点である。 原生自然と対峙する自然公園から、人工コンセプトを徹底的に追求するテーマパークまで幅が広い。観光学の学生はこの様に幅の広いパークに、それぞれ向き合って、各パークの本質を理解し、活用せねばならないのである。下手な活用は、自然破壊につながるか、経営破壊につながる。観光学では、2つのマネジメント、地域を支える「場所の管理」と、産業を支える「企業の経営」の2つが車の両輪となっていることは、何度も繰り返して学生に説明している。まともに学問を修めなかった人が、どちらかの車輪をダメにするのである。ちなみにリゾート法の時代には両方一度にダメにした業界人が続出した。そしてそのセンスを引きずっている人が、未だ現役で観光業界に残っている。恐ろしいことである。

加えていえば、公園に期待される機能は観光的な要素に限らない。「環境保全機能」や「生物多様性保全機能」「防災機能」 「レクリエーション機能」「都市景観構成機能」 「歴史文化保全機能」など様々な自然・文化的要素が関わってくる。

観光関係者はこれら機能も十分理解した上で、どの様に観光に公園を活用していくべきなのかを日々模索していかなければならないのである。

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その1) 観光学におけるパーク(公園)論の位置づけ

問1:観光学部生は、なぜパーク論を学ばなければいけないのであろうか?

問2:ところでパークっていったい何なのだろうか?

この講義を受講する学生は、何はともあれ、まず上記の問いに答えられるようになってほしい。

はじめの問いについての答えは「パーク(公園)」は、多くの観光客が訪れるデスティネーションであるからである。言わずと知れたテーマパークである東京ディズニーリゾートには年間2700万人あまりの入園者があることは、観光学の学生なら結構知っているのではないかと思う。実は、日本の自然公園にはそれを圧倒的にしのぐ9億人ほどの入り込み者が毎年あるのである。国立公園に限っても3億5000万人から4億人程度ある。環境省は実は国内で最も巨大なパーク管理者であると言える。

2つめの問いの答えは、下記の通りである。

「公衆のために設けた庭園または遊園地。法制上は、国・地方公共団体の営造物としての公園(都市公園など)と、風致景観を維持するため一定の区域を指定し区域内で種々の規制が加えられる公園(自然公園)とがある。 (広辞苑より)」

要するに、庭園、遊園地(テーマパークを含む)、都市公園、自然公園の4種類がある。ただし、プライベートな庭園や遊園地は公園の範疇に入らない。(プライベートな遊園地などないと思う人もいるかもしれないが、生前のマイケル・ジャクソンはプライベートの遊園地をつくっていましたね。)

観光学部の学生は、この4種類のパーク(公園)を満遍なく学ばなければならない。竜安寺の石庭、ベルサイユ宮殿、USJ、ニューヨーク・セントラルパーク、イエローストーン国立公園...どれも世界各国から観光客を集める国際観光デスティネーションである。これらすべてを満遍なく学ぶ講義科目は、実のところ国内にはあまり存在しない。自然公園だけ、テーマパークだけを教える科目は国内にいくつも存在する。しかしそれでは観光学の科目としては不十分なのである。そういう思いで、この講義は構成されている。上記に挙げたパーク(公園)の共通点は何か、また観光学部生が覚えるポイントは何かを的確につかんでほしい。

観光学部の学生の大半は自然公園のレンジャーを目指さない。テーマパークのイマジニアにもならない。作庭師になる確率はほぼゼロであろう。しかし、観光学を修めたからには、これらの人と仕事の話ができる知識とセンスは身につけてほしい。

その様なスタンスでこの講義は構成されているのである。

 

『「観光学」を学ぶ人のための「**論」』シリーズを始めます

いよいよ春セメスターが開講する。

今セメスターは、いわゆるマスプロ型の講義科目の受け持ちが多い。「レジャー・レクリエーション論」、「パークス&リゾート論」、「ネイチャー・レクリエーション論」の3科目である。なんと、みんなカタカナ科目。「こんなチャラけた名前では、ろくな講義をやっていないのではないか?」といぶかしむ人も多いかもしれない。

「ろくな講義ができているか否か」については、私本人がジャッジする立場にないのだろう。受講生の判断にお任せする。

ただ、これらの講義科目はいわゆるヨーロッパや北米、オセアニア等の西欧諸国ではごく普通に行われている科目である。レジャー・レクリエーション関係の学部学科が欧米諸国には普通にあり、このような講義を受ける多くの学生が存在しているのである。(平成も四半世紀過ぎてから「欧米では...」という論調を使うのはこっぱずかしい気もする。でも、これは厳然たる事実である。)

東海大学観光学部では、新設の観光系大学にありがちな「専門学校+α」型のカリキュラムや、「第二経営学部や第二文学部」のような看板掛け替え型のカリキュラムは採用していない。観光という実業に対処できる幅広い国際的な教養を持った人間を育てるためのカリキュラムが組まれている。欧米系で盛んなレジャー学を日本の観光学のカリキュラムに取り込んだ経緯もココにある。単に「観光を活用した金稼ぎ = エコノミックアニマル」ではなく、「人として誇れる観光」を我が国に定着させたいと考えている。そのために、レジャー論を学部教育の柱の1つにしようと試みているのである。このような導入の経緯から、学部開講時に文科省に届け出た上記の講義科目がカタカナ科目になったのではないかと思う。(私自身がその手続きに参画したわけではないので推測の域を出ないのであるが...)

 

いずれにせよ、今のところ「観光学部生」に向けた「レジャー論」「パーク論」「ネイチャー論」の教科書は、私の知るところ日本には存在しない。私が大学に赴任してから3年経つ。その間、私はこれらの講義を、自前の資料とパワーポイントで講義を行ってきた。私立文系の「観光学部」に入学してくる学生に、どの程度の前提知識があるのか、どの点に興味を持っているのか、どの水準から講義を開始すべきかなど手探りの状況で進めてきたのが事実である。

今年は学部の完成年、状況もだいたい分かってきたし、そろそろこれらの教科書もまとめていかねばいけない。ただ、いきなり出版用原稿をまとめるには手間と時間が大きくかかる。

 

そういう状況を鑑みて、このブログを活用して「観光学を学ぶ人のためのレジャー論」、「観光学を学ぶ人のためのパーク論」、「観光学を学ぶ人のためのネイチャー論」、をしたためていこうと考えている。

本来の講義は15回で構成されているが、このブログで15回書けるか分からない。また、内容も完璧版ではなく、あくまでブログ仕様で書いていこうと思っている。

ただ、通常の講義を受けている学生の復習にはなる程度の内容を綴っていきたいと考えている。

調査解析や公刊図書・論文執筆、学会委員等の負担は春休み中と変わらないので、ティーチングに加えてブログを書いていくと、夏休みまで相当タイトな日々となろう。しかし、何とか乗り切っていきたいと思っている。途中で挫折したらごめんなさい