「コンクリートから人へ」というのは政権交代時の民主党のキャッチフレーズであった。
今は自民党政権に戻り、このキャッチフレーズをテレビなどで耳にする機会も少なくなったが、21世紀の日本にとっては今でも大切な考え方であることは変わりない。
かつて日本はリゾート法(総合保養地域整備法)で、あたかも日本中の山や海を全てコンクリートで塗り固めた観光地にしようという勢いで、開発が進みかけた時代があった。観光利益、開発利益のために日本の自然を犠牲にすることに自責の念を感じなかったという前科が日本にはある。その過ちを繰り返してはいけない。
さすがに現在日本の観光業界が、コンクリートで自然を破壊するような行為を進めることは少なくなったが(離島などでは未だに見られないこともない)、大手の旅行業者などで自然に対する理解が進んだわけでもないと私は感じている。例えば世界遺産に登録された自然地域に旅行業者は次から次へと人を送ってくる。「お客様のニーズ」「地域活性化のため」など心地よい言葉を並べるが、要するに自社の利益の前では自然の環境収容力など考えていない職員が多いのである。今年の夏の富士山はどうなることやら、興味本位で山を壊すことに無神経な人が多く登るようになり、良心的な人はかえって登山を控えるような悪循環に陥らなければ良いのであるが…
さて、本学観光学部では、この様に地域の自然の持続可能性や海や山のワイズユースができないような人材を輩出したくない。そのためには是非自然の持つ多面的機能を知っておいてほしい。
下記のURLの図のとおり、海には海、山には山、農地には農地それぞれの多面的機能がある。中には海の「国境監視機能」のように数年前までは「なんだこれ?」と一笑に付されていた機能も近年の国際情勢の中で認識が変わったようである。各機能についていざというときのためにしっかり理解しておく必要性が共有されたことは重要である。各機能についてこのページで逐一説明はしないが、是非概念も含めて覚えておいてほしいと考えている。
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/businessindex/shinko/agri/noson_kankyo/hpdata/1-1.htm
またその様な機能を保全するための制度も整えられている。例えば森林については明治時代から保安林という制度があり、水源涵養や土砂災害防止、雪害防備、風致の維持などの目的で下記のURLのとおり17種類の保安林が設けられている。これらの保安林の種類についても実際に観光まちづくりなどの推進で関わる機会が多いので、どの様な目的でどの様な保安林があるのかを覚えておいて頂きたい。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_2.html
さらに、「機能」と「サービス」との違いについても理解しておいてほしい。
まずサービスについて説明しておく。世界的観点から見ると、21世紀に入ってからは「生態系サービス」つまり自然が我々に施してくれる各種のサービスに関する理解や研究が進んでいる。通常、生態系サービスは供給サービス(Provisioning services)、調整サービス(Regulating Services)、文化的サービス(Cultural Services)、基盤サービス(Supporting Services)にカテゴライズされている。ちなみに、観光レクリエーションとしての自然からのサービスは文化的サービスに相当するサービスである。
ところで機能とサービスの違いであるが、人間は自然がもたらす機能の一部をサービスとして享受しているという関係を覚えておいてほしい。例えば山菜採りを頭に浮かべてほしい。人間は山に生える山菜を根こそぎ採り尽くすわけではない。自然はたくさんの山菜を供給してくれる「機能」を持っているが、人間が「サービス」として活用するのはそのほんの一部分なのである。観光レクリエーションにしても全ての自然を活用し尽くすのではなく、その一部を活用して人間は満足できるわけである。その間合いを観光関係者に会得してほしいのである。