東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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田中の覚書

論文には書かない、講義では話さないような内容を綴っていきます。 

観光学に関することと、大学・ゼミに関することが中心です。

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「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その5) 日本の国立公園

日本で国立公園を制定しようとする動きは明治の末に始まった。

1910(明治43)年から始まった第43回帝国議会で日光富士山を国設の公園にしようという建議が提出されたのが自然公園制定の先駆けとなった。実はこの時期の公園への期待は自然保護というよりは観光を通じた経済的期待のほうが大きかったといわれている。アメリカの国立公園成立の事情とはその点が大きく異なる。

実は同じ時の帝国議会に「老樹大木の保護」や「史跡・天然記念物の保存」に関する建議が提出されている。これは現在の文化財保護法につながる動きであるが、この動きのモチーフはアメリカの国立公園制度であったのが何だか捻れていて興味深い。

結果的には1931(昭和6)年に国立公園法が制定され、その3年後の1934(昭和9)年に「瀬戸内海」「雲仙」「霧島」の3カ所が日本初の国立公園として指定されたことはこの業界では常識となっている。

ところで、現在の国立公園は1957(昭和32)年制定の「自然公園法」に法的な根拠がある。所管官庁は環境省で、自然公園とは、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与する公園のことである。以下の3種類にカテゴライズされている。

国立公園 我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地。環境大臣が指定。

国定公園 国立公園に準ずる優れた自然の風景地。環境大臣が指定。

都道府県立自然公園 優れた自然の風景地。都道府県が指定。

どの様な地域が国立公園や国定公園になるかといった点については「自然公園選定要領」に定められている。

また自然公園の管理は日本人の観光レクリエーション観の変化や、公園指定による風景評価の変化・多様化などに合わせて変化を遂げてきた、現在は国立公園に多様なニーズが寄せられているため、かつての様に造園学を修めた国立公園レンジャーが公園内部の管理を専従的に行うのではなく、国立公園の周辺地域とのつながりも含めて、地域住民や自然保護団体、農林水産業者など多様なステークホルダーとの協働型管理が求められているのである。

また、自然公園法の構成については自然公園法の概要を参照されたい。「自然公園の管理」は「保護」と「利用」のための「事業」と「規制」のをたすき掛けにした4種類の計画に加えて「セイブル多様性の保全」に係る計画で構成されている。そのために、規制は5段階でゾーニングされていることも覚えておいてほしい。また海域公園地区の概念も理解しておいてほしい。

 

「観光学」を学ぶ人のための「ネイチャー論」(その4) 自然の多面的機能を押さえよう

「コンクリートから人へ」というのは政権交代時の民主党のキャッチフレーズであった。

今は自民党政権に戻り、このキャッチフレーズをテレビなどで耳にする機会も少なくなったが、21世紀の日本にとっては今でも大切な考え方であることは変わりない。

かつて日本はリゾート法(総合保養地域整備法)で、あたかも日本中の山や海を全てコンクリートで塗り固めた観光地にしようという勢いで、開発が進みかけた時代があった。観光利益、開発利益のために日本の自然を犠牲にすることに自責の念を感じなかったという前科が日本にはある。その過ちを繰り返してはいけない。

さすがに現在日本の観光業界が、コンクリートで自然を破壊するような行為を進めることは少なくなったが(離島などでは未だに見られないこともない)、大手の旅行業者などで自然に対する理解が進んだわけでもないと私は感じている。例えば世界遺産に登録された自然地域に旅行業者は次から次へと人を送ってくる。「お客様のニーズ」「地域活性化のため」など心地よい言葉を並べるが、要するに自社の利益の前では自然の環境収容力など考えていない職員が多いのである。今年の夏の富士山はどうなることやら、興味本位で山を壊すことに無神経な人が多く登るようになり、良心的な人はかえって登山を控えるような悪循環に陥らなければ良いのであるが…

さて、本学観光学部では、この様に地域の自然の持続可能性や海や山のワイズユースができないような人材を輩出したくない。そのためには是非自然の持つ多面的機能を知っておいてほしい。

下記のURLの図のとおり、海には海、山には山、農地には農地それぞれの多面的機能がある。中には海の「国境監視機能」のように数年前までは「なんだこれ?」と一笑に付されていた機能も近年の国際情勢の中で認識が変わったようである。各機能についていざというときのためにしっかり理解しておく必要性が共有されたことは重要である。各機能についてこのページで逐一説明はしないが、是非概念も含めて覚えておいてほしいと考えている。

http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/businessindex/shinko/agri/noson_kankyo/hpdata/1-1.htm

またその様な機能を保全するための制度も整えられている。例えば森林については明治時代から保安林という制度があり、水源涵養や土砂災害防止、雪害防備、風致の維持などの目的で下記のURLのとおり17種類の保安林が設けられている。これらの保安林の種類についても実際に観光まちづくりなどの推進で関わる機会が多いので、どの様な目的でどの様な保安林があるのかを覚えておいて頂きたい。

http://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_2.html

 

さらに、「機能」と「サービス」との違いについても理解しておいてほしい。

まずサービスについて説明しておく。世界的観点から見ると、21世紀に入ってからは生態系サービスつまり自然が我々に施してくれる各種のサービスに関する理解や研究が進んでいる。通常、生態系サービスは供給サービス(Provisioning services)、調整サービス(Regulating Services)、文化的サービス(Cultural Services)、基盤サービス(Supporting Services)にカテゴライズされている。ちなみに、観光レクリエーションとしての自然からのサービスは文化的サービスに相当するサービスである。

ところで機能とサービスの違いであるが、人間は自然がもたらす機能の一部をサービスとして享受しているという関係を覚えておいてほしい。例えば山菜採りを頭に浮かべてほしい。人間は山に生える山菜を根こそぎ採り尽くすわけではない。自然はたくさんの山菜を供給してくれる「機能」を持っているが、人間が「サービス」として活用するのはそのほんの一部分なのである。観光レクリエーションにしても全ての自然を活用し尽くすのではなく、その一部を活用して人間は満足できるわけである。その間合いを観光関係者に会得してほしいのである。

 

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その4) 世界の国立公園

世界最初の国立公園は、アメリカのイエローストーン国立公園である。今からおおよそ130年前、1872年の出来事である。この国立公園の誕生には、秘話として以下のことが語り継がれている。

時はゴールドラッシュに沸く西部開拓の時代であった。西へ進んだ開拓民たちは、各地で牧場経営などをはじめた。法律に基づき開拓民が開墾すれば、そこは自分たちの所有地になった。
そのような時代の最中、1870年にHenry D. Washburnらの探検隊は、イエローストーンの間欠泉や雄大な滝などの大自然に目を奪われた。
その夜、キャンプの焚き火を囲みながら、隊員たちは昼間見た景色の感動に酔いしれた。
その時、隊員のひとり、Cornelius Hedgesが、この大自然を個人の所有のもとで開拓し、荒らすのではなく、後世に伝えて公共の福祉に供するべきだと熱く語った。
この夜の熱い議論が、世界で最初の国立公園、1872年のイエローストーン国立公園の誕生を生んだのである。

以降、国立公園の概念は全世界に広まった。
日本でも1931(昭和6)年に国立公園法が制定され、戦後自然公園法に受け継がれ、今では北海道から沖縄まで、全国に30の国立公園を有するまでになっている。
ただし日本の国立公園は、アメリカのように営造物制ではなく地域制公園で、管理の仕組みや保全も目的も必ずしもアメリカとは同一ではない。

世界各国に国立公園(national park)があるが、必ずしもその概念や管理の方法が同一であるわけではない。同じ言葉が別の概念で使われていては何が何だか分からなくなる。
そのためIUCNなどが音頭を取り、10年に一度をめどに世界国立公園会議というものが開催されている。この会議は、第1回目が1962年にシアトル(米国)で開催されており、直近では2003年にダーバン(南アフリカ)で第5回会議が開催された(次回は2014年開催予定)。
第5回会議の成果は、『地球の保護地域2003(Planet’s list of Protected Areas 2003)』として刊行されるとともに、World Database on Protected AreasとしてWEB上で公開もされている。

IUCNのカテゴリーは、6つのカテゴリーに分けられている。ただし、カテゴリー1は「1a」と「1b」に分けられているので実質的には7つのカテゴリーと行って差し支えない。それらは下記のとおりである。

カテゴリー1a 厳正保護地域 Strict Nature Reserve:主として学術的な目的のために管理

カテゴリー1b 厳正保護地域 Wilderness Area:主として原始性の保護のために管理

カテゴリー2 国立公園 National Park:主として生態系保護とレクリエーションのために管理

カテゴリー3 天然記念物 Natural Monument or Feature:主として特異な自然物を保全

カテゴリー4 首都生息地管理地域 Habitat/Species Management Area:主として管理介入と通じて保全

カテゴリー5 景観保護地域 Protected Landscape/Seascape:主として陸域・海域景観の保全とレクリエーションのために管理

カテゴリー6 資源保護地域 Protected Area with sustainable use of natural resources:主として自然生態系の持続可能な利用のために管理

そして、日本の国立公園の多くはカテゴリー2ではなくカテゴリー5に区分されている。そしてカテゴリー2には、「森林生態系保護地域」や「国設特別鳥獣保護区」など、他の法律や規程による保護地域がエントリーされている。日本の国立公園は必ずしもIUCNの国立公園と同値ではないのである。

2014年の世界国立公園会議でこれらカテゴリーがどう修正されていくのかは来年を待つしかないが、今はこの様に世界の国立公園と日本の国立公園との微妙な違いを覚えておいてほしい。

 

 

 

「観光学」を学ぶ人のための「レジャー論」(その4) エンデの『モモ』を読もう

「学問はファンタジーには勝てない」
細々とではあるが、四半世紀学問に携わってきた訳であるが、一貫して上記の様に感じている。
学問を通じて何かを理解しても、必ずしもそれがその人の身についているとは限らない。しかしファンタジーを通じて何かを悟った人は、道を踏み外すことが非常に少ない。それを忘れてしまうことはまずないのである。

レジャー論においてもそれは当てはまる。私自身はアリストテレスのレジャー論やピーパーの「余暇と祝祭」論、鈴木正三の職業倫理など、レジャーや労働に係る各種学説などを読むとワクワクするのであるが、大半の人は眠くなるのがオチであろう。

その様な中で、目の前にいる200人の学生に「お勧めのレジャー論の教科書は?」と質問された場合、私は学術書や論文ではなくミヒャエル・エンデの『モモ』を推薦すると思う。
『モモ』は3部作21章の児童向けの長編物語である。ストーリーは各自読んで頂きたい。私が『モモ』をレジャー論のテキストとして推薦するのは、第1部の「モモとその友だち」で「レジャーの本質」を、第2部の「灰色の男たち」では「現代社会の本質」を、そして第3部の「<時間の花>」では「人生における時間とは?」『資本主義と効率主義は人間を幸福にするのか?」ということを考えさせてくれるからである。
この様な難しい課題を児童向けの文学書としてワクワクドキドキする筆致でまとめているエンデ氏と訳者の大島氏には脱帽である。この様にして身にしみたレジャー観は「けっしてぬけない鉤針のように心にしっかりくいこん」で来ること間違いないと思う。

是非、学生のうちに一度読み、そして社会人になってから再び読み返して頂きたい。

「観光学」を学ぶ人のための「ネイチャー論」(その3) 国土利用計画を覚えておこう

日本の国土は管理されている。

ということは、日本の自然も管理されているということになる。どの様に管理されているのか?

前々から、観光学というのは「(企業をマネジメント=経営する)経営学」と「(場所をマネジメント=管理する)地域管理学」の二つのマネジメントの学問(領域学)に支えられた「メタ領域学」であると教えてきた。

ただし後者の地域管理学は都会から原生自然まで幅が広いので、サブカテゴライズされている。それが国土利用計画の視点である。

 

取りあえず覚えておいてほしい要点は下記の対応関係である

都市地域 - 都市計画法 - 日本都市計画学会

農業地域 - 農振法 - 農村計画学会

森林地域 - 森林法 - 日本森林学会

自然公園地域 - 自然公園法 - 日本造園学会

自然保全地域 - 自然環境保全法 - 日本造園学会

観光学で地域のマネジメントを学習するには、国土利用計画法で定められた上記5地域の概要を覚え、それに対応する5つの法律を修め、5つの地域に主として関わる4つの学会に目を光らせておく必要があるわけである。でも、実際にこの様なもの全てに目を光らせた上で、経営学も修めている人がこの日本に何人いるのだろうか。心許ない。

そのため、観光学を今学んでいる学生への期待は一層強くなる。

上記5つの法律に是非目を通すように。