東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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27日

「観光学」って何をしてるの(6) 業種・業態が多岐にわたる点

今回は、

5. 「観光学」に関係する業種・業態が多岐にわたり、就職先も多様である点

について語ってみたい。

先週、「観光学部は旅行業への就職予備校ではない」という話をした。実態としては、もちろん多くの学生が旅行業者や運輸業、宿泊業等のいわゆる旅行業界に職を得ていくわけである。しかし、観光立国推進のために大学の学問に期待されていることは、これらの業界に就職することだけを目的に、ピンポイントで実務的(オペレーショナル)な専門スキルを学生に教えることではないのは、皆さんすでに理解いただけたことと思っている。

これからの観光学は、経営学、商学、経済学、地理学、社会学、心理学、土木工学、都市工学、建築学、環境、農学などの各領域に広範囲にわたり分散した学術的知見を学際融合させることが、国から期待されている状況であることを前回述べた。

...ということは、観光学を修めて社会に出て行く人、つまり実業である観光業に携わる人たちには、多岐にわたり分散する観光関係の業種・業態を、地域の発展・振興のために業際融合させていく実務能力が求められているわけである。そして、観光学部卒業生各自が実際に働くフィールドは、様々な企業や組織、あるいは個人活動に及ぶことになる。

 

さて、これでやっと今日の本題に入れるのであるが、「業種」という言葉がある。経営学関係の講義で習ったであろうし、就活生なら馴染みの言葉だろう。

「業種」とは、「営利目的等で経営される企業・組織の事業内容の種類」のことで、大まかに分けると農業、建設業、製造業、サービス業など、もうちょっと細かく分けると畜産業、設備工事業、繊維工業、通信業などに分けることができる。さらに細かく分類することも可能であるが、きりがないのでここではやめておく。

ところで...であるが、「観光業」という業種は、統計上ないのである。 意外だっただろうか。それともとっくに知っていたであろうか。

日本では、総務省の『日本標準産業分類』に従って産業を分類することが多い。そのルールに従うと、観光業は1つの業種にまとまっていないのである。

平成19年11月改定の最新の日本標準産業分類では、我が国の全業種を、とりあえずAからTまで20に大まかに分類している。観光業に深く関わる業界をちょっと考えただけでも、

食材提供(山の幸)は、A 農業,林業

食材提供(海の幸)は、B 漁業、

観光まちづくりや再開発は、D 建設業

特産物の生産は、E 製造業

旅行ガイドの出版は、G 情報通信業

航空会社やバス・鉄道は、 H 運輸業,郵便業

土産物屋は、 I 卸売業・小売業

旅行傷害保険は、J 金融業,保険業

レンタカーは、K 不動産業,物品賃貸業

通訳案内士は、L 学術研究,専門・技術サービス業

ホテル等は、M 宿泊業,飲食店

旅行業者やブライダル産業・テーマパーク等は、N 生活関連サービス業,娯楽業

動物園や博物館・美術館は、O 教育学習支援業

検疫などの業務は、P  医療、福祉

芸術や伝統文化の振興団体は、R サービス業(他に分類されないもの)

国や自治体の観光部門であれば、 S 公務(他に分類されるものを除く)

と、16業種にも渡ってしまうのである。(ちなみに残りの4業種は、C 鉱業.採石業,砂利採取業、F 電気・ガス・熱供給・水道業、Q 複合サービス事業(←協同組合など)、  T 分類不能の産業(←これは事実上分類カテゴリーとは言えない)である。)

1つにまとまるどころか、こんなにバラバラになってしまう。困ったものだ。この様な状況なので、例えば観光経済を真面目に勉強する際には「サテライト・アカウント」などの面倒くさい経済統計の仕組みを学ばなければならない羽目に陥るのである。

 

話を戻すと、語学に力を入れる学生、学芸員を目指す学生、接客技術を磨く学生...様々な学生が観光学部に入学し、様々な就職先を狙っている。どの業種にアタックするかで面接の対応も変わってこよう。面接時に説明しにくいのも仕方がない。

この問題を解決するための就活面接対策は、さすがにこのブログでは書ききれない。ケースバイケースで相談に乗るしかないであろう。

 

「業種」の話ばかりをしていて「業態」の話をするのを忘れていた。

業態は、マーケティングなど商売関係の講義(商学)で習っているだろうか。同じ業種でも、違う客層やターゲットを対象としている場合、別の業態として分類することになる。

小売業では、百貨店・スーパーマーケット・コンビニエンスストアなどの業態に分けられるし、ホテルであればシティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテルなどに分けられる。イタリアンレストランなら、リストランテ、トラットリア、タベルナ等に分けられようか。

商売に関わる観光関連産業は、「業種」にとどまらず「業態」も多岐にわたるので、さらに複雑になってしまう。

業界に人材を送り込む大学側の事情にちょっと話を転じてみよう。実学を修め、業界に人材を送り込むスタイルが想定されるのは何も観光学部だけではない。例えば、世界で初めて日本が大学の学部として設置した工学部は、その様な学部の典型で、老舗である。

ただ、工学部ならば、学部の中が専門性に基づき細かい学科に分かれ、さらに学科内の研究室によって専門性がさらに明確になっている。工学部自体の就職先は多岐にわたるが、研究室に配属されればだいたいの就職先は確定する(文系就職でもしなければ)。

一方、観光学部は若い学部なので各ゼミの専門性・明確性が今ひとつである。教員側の専門性も今ひとつ未分化である気がする。そもそも観光学を対象に研究成果をまとめてドクターを取得した教員が、我が国には欠乏状態である。工学の研究室のように研究室ごとに専門性を高めた教育研究を実施する状況が作れないのである。いわば、ポジショニングがはっきりしているプロのサッカーが工学部、柔道部や陸上部どころか、スタンド観戦者までやっとこさ人数をかき集めて、ボールの周りにまとわりついてみんな団子のように動いている小学生のようなサッカーが観光学部なのだろう。

学問を深化させ、その研究室でどのようなスキルが修められるのか明確に提示できるように教員も努力しなければいけない。自戒を込めて。

 

参考:ツーリズム産業の範囲(日本観光振興協会作成:『数字が語る旅行業2012』p15や各種HP等に掲載されています)

(この図を見ると、観光産業に関係する業種がが非常に多岐にわたっていることが理解できる。図が見づらい場合は、画像をクリックしてください。))

図1