東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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31日

「観光学」って何をしてるの(9) 「観光学」の水準が、国際的には高くない点

本日は最後の話題、

8. そもそも日本の「観光学」の水準が、国際的には高いとはいえない点

について述べてみたい。今回も前回に引き続き、教員側から言えば禁断の話題になるかもしれないが...

 

我が国の大学における観光学は半世紀近く前までさかのぼることができるものの、いくつもの大学に観光学部・学科やコースが設立されるようになったのは21世紀に入ってからに過ぎない。日本では観光学は未熟で新しい分野であると言える。そのため、カリキュラムや教員の水準を、国際的に比較した場合には、出遅れ感が否めない状況にある。

例えば、もしあなたが、世界を股にかけるホテリエになりたい場合、その水準に十分見合ったホテル学を身につけられる大学が、日本にあると言えるだろうか?私個人の意見としては、日本の学部教育で終わりにせずに、コーネルやハーグ等の大学院に進むことをお勧めする。大学院に行くのは、一旦日本のホテルに就職してからでも良いかもしれない。そのほうが教育の意図が理解でき、自分の血肉になりやすいだろう。

いずれにせよ、高級シティホテル業界をはじめとして、観光に関連する業種は、国際水準で動いているところが少なくない。そういうところは、実力本位の学歴・資格ベースの世界である。どこで、何を身につけたかが、シビアに見られる。私自身は実業界に進まず、(国立)研究所→大学というキャリアを進んできた訳であるが、実力本位の世界は少なからず体験している。研究の世界もある意味国際的である。日本国内にノンビリ納まっている教員(文系学部には結構いる)が感じることは少ないが、国際学会や研究プロジェクトで海外に出かけたとき、例えば博士号を持っているか否か、教授であるか否かで大きく待遇が区別されることがある。そもそも呼ばれ方が、「ドクター**」「プロフェッサー**」であったり、「ミスター**」であったりするので、普通の会話の段階で明らかに区別されてしまうのが学術の世界である。「ミスター**」は基本的に学術界では一人前として相手にされないことが多い。2チャンネル風に書けば「プロフェッサー**」>「ドクター**」>>>>>「ミスター**」といった感じであろうか。もっとも、日本には「プロフェッサー・ミスター」という国際的には例外的な人種がたくさんいることを、多くの外国人は気づいてないようであるが。

学位や資格で判断することは国際社会では仕方のないことである。私だって、国際会議で初めて出会う外国人が、それなりの研究者なのか、学生レベルであるのか(外国では結構年のいった人が学生であることも少なくない)、単なる一般人なのか、見た目だけでは判断できない。そのため、博士号があるのか、どのような分野で博士論文を書いたのか、現在教えているのは大学なのかあるいは国立研究所などで働いているのかなどを、挨拶代わりに自己紹介し合うことになる。国際的な交流では仕方がないのである、日本人から見れば多くの西欧人は体が大きく貫禄がある。でもそんな人が博士号取得前の「ミスター」だったりするわけである。いずれにせよ、自己紹介の結果、互いにちゃんとした研究キャリアを積んでいて、かつ研究分野が近いと分かると、研究的なつきあいが始まることとなる。

このような交流の仕方はホテル業界でも変わらないであろう。ホテル業界では博士号にそれほどこだわることはなく、他の資格や職歴が重視されるのであろうが。

 

さて、話が脱線しかけているように見えるが、一応伏線を考えながら話をしてきたつもりである。「日本の「観光学」の水準が、国際的には高いとはいえない点」を解決するには、「教員側が対応すべき課題」と「学生側が行うべき課題」に分けられる。

実のところ、我々教員が「観光学部に入学してきたみんなに講義をすること」は容易い。相手が高校卒業の学力で、社会人経験がない無垢な学生なので、学術的に長けていない普通の社会人でも、皆を言いくるめることはさほど難しくないのである。教員は多くの場合いい歳なので「自分の知っている二次情報やよもやま話」を、適当に誤魔化し誤魔化し話していれば学生に対する優位は保てるものである。ただそれでは、本来のカリキュラムでは「大学の学士として最低限達成しなければいけない教養水準と専門水準」をクリアさせるために高度な内容に、学生を導いているかどうかはなはだ疑問である。

「大学の学士として最低限達成しなければいけない教養水準と専門水準」をクリアするために、我々教員はただティーチングを行うだけではなく、国際学会に出席して国際的な研究動向を確かめたり、論文投稿などをして国際的な研究水準の向上に貢献するという業務をしている。これらを「研究業務」というが、この研究業務なくしては大学で教鞭を執る水準は保てない。今も何本か抱えているが、国際誌の学術論文の査読を引き受けるのもその様な理由からである。審査内容を公開はできないが、何よりも早く最新の研究動向をつかむことができる。いずれにせよ、教員は国際的水準の維持のための努力を欠かすことはできない。

 

学生の課題は常日頃の講義やゼミに臨む態度である。皆さんには是非講義中、講義前後に積極的に質問をしてほしい。そうすれば教員側も手を抜けなくなり水準が上がる。オフィスアワーも積極的に活用してほしい。就活生だってまだまだ間に合う。面接やエントリーがうまくいくか行かないかの確率は、まともな教員とどれだけ対峙したかという経験で向上する。「自分よりも学生を伸ばしてていこうとしている教員」をうまく探そう。「たいした実績もないのに頼れる兄貴・親分を演じる人」には要注意である。そういう人は「巧みに普通のこと」をありがたそうに話すだけで、たいした実力の向上は望めない。実力のない人ほど話術を磨くと言うことがままあるので、引っかからないように注意しよう。講義ではなかなか伝えきれないが、ちゃんとした教員であれば「国際的な水準」を理解しているはずなので、現在の講義と国際水準とに、どの様なギャップがあるのかを解説してくれるだろう。

分かっていれば講義で教えれば良いではないかというお叱りが来そうであるが、そうはなかなかいかないのである。自分が持てる講義は6コマ程度である。他の科目は、科目として学生に直接教えることはないのである。さらに言えば、その数コマも、100人規模の大講義が少なくない。一定の水準を確保してきめ細かな指導を行うことは難しいのである。現状では、日本のマスプロ講義で水準の高い講義を提供するのは難しいのである。 「学生側に積極的に質問をしてほしい。」というのは切なる願いである。サンデル教授の講義DVDなどが評判になっているが、あれは積極的な学生が集まっているからこそできる講義である。東海大にもあのような講義を行いたい教員はいっぱいいると思う。

日本の観光学は、発展途上にある。かえってそういう学問は、ちゃんとした実力を持った教員を交えたディスカッションを行うことで、学生の水準が格段に向上する可能性が十分あるのである。是非とも教員を使い倒すぐらいの意気込みで講義に出席し、ディスカッションを行い、観光学の水準を上げる力になってほしい。入学からその様な実践を積んでいれば、就活の面接でひるむことはないはずである。

 

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以上、長々と続いたが、「観光学って何をしてるの?」と聞かれたときに、就活生が困っているという意見を聞いたので、その理由や背景を赴くままに覚書として綴ってみた。その場で書き下ろしていくため深い考察ができなかったり、重要な論点が抜けたり、話が脱線することも間々あったかと思う。その点についてはご容赦願いたい。就活は毎年続く。観光学部の学生は、毎年順番に「観光学とは何か」を就活面接で悩み続けるのであろう。その対応に際して、このブログが多少でも”タシ”になれば良いと願っている。

何はともあれ3月も終わる。この話題については一旦これでおしまいとする。