東海大学観光学部観光学科 田中伸彦ゼミ

2012年4月 田中ゼミがスタートしました。 2013年3月にホームページをアップしました。

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21日

「観光学」を学ぶ人のための「パーク論」(その2) 言葉の定義 公園/パークの起源 現代的役割

学問は、概念・意味・論理・説明・理由・理論・思想などを扱う「ロゴス(logos)」の世界である。 社会学(sociology)、心理学(psychology)、地質学(geology)、生物工学(biotechnology)、神学(theology)など、多くの学問の名前には、ロゴスを表す[-logy]が付いている。大学の教育・研究の多くは「ロゴス」のために存在するといっても過言ではないだろう。

ということは、パークス&リゾート論を学ぶ学生は、パークないしは公園、あるいはリゾートについて、しっかり言葉で説明できる知識と素養を身につけなければならないということになる。「言葉の定義」が何にも先駆けて必要なのである。

もちろん、完全な言葉の定義が全ての場合で可能である訳ではない。そういう場合には、論文なら論文ごとに、講義では講義ごとに「我々は**という言葉を##という意味で使っている」と定義することが学問のルールになっている。

今回の講義では、この講義における公園およびパークという言葉の定義について確認するために時間を費やす。加えて、近代的な公園、パークの定義や現代的役割についても話を進めておく。「公園(パーク)」は、人間が作り出した制度/区域/社会システムである。鉱物のようにその辺を掘れば出てくる物ではないし、植物のように勝手に生えてくるものでもない。人間の頭の中のアイデアが、現実社会に有形物として表現されているに過ぎない。公園(パーク)が人間の頭の中の物だとすれば、公園(パーク)に関わる人たちの頭の中のすりあわせが必要になる。「あの人は公園をこういう風に思っているが、この人の考えは全然ちがう」という状況では、まともな公園のマネジメントはできない。言葉の定義、つまり「概念の共有」をしておかないと、観光デスティネーションとしての公園(パーク)やリゾートの適正な活用や保全は叶わないのである。

この講義では、定評のある国語辞典『広辞苑』に記載されている下記の公園の定義にしたがって進めていく。

「公衆のために設けた庭園または遊園地。法制上は、国・地方公共団体の営造物としての公園(都市公園など)と、風致景観を維持するため一定の区域を指定し区域内で種々の規制が加えられる公園(自然公園)とがある。 (広辞苑より)」

つまり

1.公開されている庭園

2.公開さている遊園地

3.法律で定められている都市公園

4.法律で定められている自然公園

の4つについての知識や概念を学んでいく。講義に当たっては、庭園をさらに日本庭園と西洋庭園に分けて教え、遊園地の中ではテーマパーク も扱っていく。それぞれの成り立ちや歴史、法制上の位置づけ、経営上の特質などが重要となる。

実のところ、1つの講義で上記4つのカテゴリーを、一度に全て教える科目は珍しい。造園学で自然公園論や庭園論を教えたり、工学部で都市公園論が開講されていたり、社会学者がおもしろおかしくテーマパーク(といいながらなぜかディズニーだけ)を講義するような科目はあるが、全てをまたがってまとまりを持って教える科目はほとんどないのである。しかしながらである。あらゆるデスティネーションと関わる観光学では、この講義のような学び方が必要なのである。

取りあえず言葉の定義に戻ろう。

日本の公園については取りあえず広辞苑に従おう。では、公園の本家である西欧ではどの様に公園は定義されているのであろうか。

『オックスフォード 現代英英辞典』よりparkの項目を抜粋してみよう。そうすると、

名詞

1.人々が散歩をしたり、遊んだり(play)、リラックスする場所となる、街や都市における公衆地の一角

2. (成句として)ある特定の目的のために使用される大きな区域(ビジネスパーク、サイエンスパーク)

3. (英国) 通常は草原や樹林を伴い、大きなカントリーハウスに隣接する囲われた区域

4. (米語)スポーツをするための場所、特に野球場。BALLPARKを参照。

5. (イギリス英語)サッカー・ラグビー場

動詞

1.車をある区画の中に運転して入り、しばしの間、駐めておくこと。

2. ~ yourself にて  しばしの間ある場所に座ったり、立ったりしていること。

とある。原文はもちろん英語である。上記の定義を見ると、広辞苑の「公園」4つのカテゴリーよりも概念が広いことが分かっていただけるかと思う。特にビジネスパークやサイエンスパークなどの言い回しは、日本の公園にはない発想であろうと考えられる。駐車場もparkingである。それには理由がある。英国におけるparkという言葉の起源は、「(狩猟用の)囲い地」にあるということである。

parkは今のような市民の憩いや休息・娯楽の場として生まれた言葉ではない。王侯貴族がカントリーサイドの土地を囲い、そこで狩猟を愉しんだことに端を発している。以後、土地の利用法は異なっても、感覚的に似たような場所があれば、英語ではparkと呼ぶ訳である。

 

ここで、英国版広辞苑とも言えるくらいに向こうでは定評のあるTheOxford English Dictionary 2ndEdを参考に、parkという言葉の意味の変遷過程を抜粋して確認しておこう(もちろん日本語に訳しておく)。

名詞

1a. 狩猟獣を維持するため、王族の下付や命令に基づき所有されている広い面積の土地

b. 故に、意味が拡張され、レクリエーションに利用したり、しばしば鹿や牛・羊を飼育するために利用するカントリーハウスや大邸宅に隣接するあるいはそれらを取り囲む、通常樹林地や放牧地からなる広大かつ装飾された土地のことを指す。

c. その意味で、現在はよくカントリーハウスや大邸宅の名前の一部に組み込まれており、そこから郊外の地域名にも使われている。例えば、 Addington Park, Osterley Park; Clapham Park.

以上のように、英語のparkという言葉の定義ががどのように 変遷したのかがよく分かる。言葉は生き物。定義も時代とともに変遷する訳である。

 

さて、この様に定義が移り変わってきたparkであるが、現代的な「都市のpark」は、ヨーロッパの近代(19世紀)に起源を発する。イギリスを例にとると、産業革命の時代にさかのぼることができる。18世紀前半のイギリスでは、第2次囲い込み運動(エンクロージャー)により、共有地(common)の減少が都市域に及ぶ事態が発生していた。そのため、産業化による都市内の環境悪化が大きな社会問題となっていた。その解決のために、イギリスでは、1836年にエンクロージャー法は公布された。この法律が近代的な「公園法制」の始まりに大きく関わっている。

例えば、首都ロンドンでは中心地から10マイル以内にある共有地は囲い込みから除外し、保存することが法制化された。その結果、現在においてもロンドン市内にはハイドパーク、リージェントパークなど広大な狩猟地が保全され、現在の公園として残されることとなった。そして、それらの公園は、今では市民の憩いの場であることはもちろんのこと、海外からの観光客の主要なデスティネーションともなっているのである。

ちなみに、アメリカのような新世界でも都市環境の悪化は進んでいった。しかし、アメリカには貴族が所有していた広大な狩猟地などは、当然のことながら存在していなかった。そのため、アメリカ国民は市民自らの力で公園を創り出さざるを得なかった。

例えばニューヨークでは、1853年にセントラルパーク創設に繋がる法令がニューヨーク州議会を通過した。市民の力で近代的な公園を創設した訳である。その後、公園が西欧社会の近代化の装置として重要な役割を果たすことになる。当然NYセントラルパークも国際的な観光デスティネーションとして欠かせない存在である。

翻って日本には著名な観光デスティネーションとしての公園がどの程度あるだろうか。札幌の大通公園や横浜の山下公園などいくつか頭に思い浮かぶ。しかし、知名度にしても数にしても、もっとあって良いような気がする。デスティネーションとしての公園の発掘も観光業界の大きな役割の1つである。

 

長くなったので、話題を変えよう。

公園が、現代の観光学にとって重要である理由はいくつかある。

1つめは、「観光デスティネーション(目的地)」だという点である。

世界初の国立公園のイエローストーン、国際的都市公園のNYセントラルパーク、日本庭園の竜安寺石庭、テーマパークのディズニーランドなど、これら公園(パーク)は、全て現代観光になくてはならない存在である。そのため、なぜこれらが観光的に重要なのかという点を学術的に理解することが観光学部生には求められる。

2つめは、「人間の概念」に基づく点である。 この点については上述したが、公園(パーク)は自然界に自明的には存在しない。人が区域を定め、管理方法を決定し、利用規制等を行って初めて成立するのである。観光学の学生はそのプロセスを理解し、概念の伝承し、上手に活用するというスキルが求められるのである。従って、観光学の教育に公園(パーク)教育が必要となるのである。

3つめは、「対象となる実態が幅広い」点である。 原生自然と対峙する自然公園から、人工コンセプトを徹底的に追求するテーマパークまで幅が広い。観光学の学生はこの様に幅の広いパークに、それぞれ向き合って、各パークの本質を理解し、活用せねばならないのである。下手な活用は、自然破壊につながるか、経営破壊につながる。観光学では、2つのマネジメント、地域を支える「場所の管理」と、産業を支える「企業の経営」の2つが車の両輪となっていることは、何度も繰り返して学生に説明している。まともに学問を修めなかった人が、どちらかの車輪をダメにするのである。ちなみにリゾート法の時代には両方一度にダメにした業界人が続出した。そしてそのセンスを引きずっている人が、未だ現役で観光業界に残っている。恐ろしいことである。

加えていえば、公園に期待される機能は観光的な要素に限らない。「環境保全機能」や「生物多様性保全機能」「防災機能」 「レクリエーション機能」「都市景観構成機能」 「歴史文化保全機能」など様々な自然・文化的要素が関わってくる。

観光関係者はこれら機能も十分理解した上で、どの様に観光に公園を活用していくべきなのかを日々模索していかなければならないのである。